乳がんサバイバーと非がん疾患リスク

今日のポイント：乳がんサバイバーは心不全、心房細動、骨折、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつの発症リスクが高い

日本の乳がんサバイバーと非がん疾患リスクの関係を調査しました。筑波大学からの報告です。（Lancet Regional Health-Western Pacific誌、2025年3月号）

日本国内の企業の従業員とその家族を対象とするJMDCデータベースを用いて、2005年1月～2019年12月に登録された18～74歳の女性の乳がんサバイバーと、同年齢の乳がんではない対照者を1：4の割合でマッチングさせました。乳がんサバイバーは上記期間に乳がんと診断され、1年以内に手術を受けた患者でした。転移/再発乳がん、肉腫、悪性葉状腫瘍の患者は除外した。2つのグループ間で、6つの心血管系疾患（心筋梗塞、心不全、心房細動、脳梗塞、頭蓋内出血、肺塞栓症）と6つの非心血管系疾患（骨粗鬆症性骨折、その他の骨折［肋骨骨折など］、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつ）の発症リスクを比較しました。

・解析対象は、乳がんサバイバー2万4,017例と、乳がんではない同年齢の女性9万6,068例（対照群）であった。平均年齢は両群ともに50.5（SD 8.7）歳でした。
・乳がんサバイバー群は、対照群と比較して、心不全（調整ハザード比[aHR]：3.99［95％信頼区間[CI]：2.58～6.16］）、消化管出血（3.55［3.10〜4.06］）、不安・うつ（3.06［2.86〜3.28］）、肺炎（2.69［2.47～2.94］）、心房細動（1.83［1.40～2.40］）、その他の骨折（1.82［1.65～2.01］）、尿路感染症（1.68［1.60～1.77］）、骨粗鬆症性骨折（1.63［1.38～1.93］）の発症リスクが高くなりました。
・多くの疾患の発症リスクは、乳がんの診断から1年未満のほうが1年以降（1～10年）よりも高くなりました。
・とくに不安・うつは顕著で、1年未満のaHRが5.98（95％CI：5.43～6.60）、1年以降のaHRが1.48（1.34～1.63）でした。
・骨折リスクは診断から1年以降のほうが高くなりました。
・初期治療のレジメン別では、アントラサイクリン系およびタキサン系で治療したグループでは、骨粗鬆症性骨折、その他の骨折、消化管出血、肺炎、不安・うつの発症リスクが高い傾向にあり、アントラサイクリン系および抗HER2薬で治療したグループでは心不全のリスクが高い傾向にありました。
・アロマターゼ阻害薬で治療したグループでは骨粗鬆症性骨折、消化管出血の発症リスクが高い傾向にありました。

以上より、乳がんサバイバーは心不全、心房細動、骨折、消化管出血、肺炎、尿路感染症、不安・うつの発症リスクが高く、それらの疾患の多くは乳がんの診断から1年以内に発症するリスクが高いことが明らかになりました。


参考文献：
Non-cancer risks among female breast cancer survivors: a matched cohort study in Japan - The Lancet Regional Health – Western Pacific