熱中症とコロナ⑤

今日のポイント：血液検査では熱中症とコロナ感染症を区別することは難しい
 

前回に引き続き熱中症とコロナに関する内容を取り上げます。

Q-5 血液検査は熱中症と COVID-19 の鑑別に有用か？
A-5 両者の鑑別に有用な血液検査の項目はない。
 
【解説】
熱中症関連で4論文、COVID-19関連で8論文を検討の対象とした。文献検索を行った時点で、COVID-19と熱中症の鑑別を目的とした採血項目に関する研究は1件のみであった。熱中症は重症化すると臓器虚血と高体温そのものが臓器障害を進行させ、高サイトカイン血症によるSIRSと腸管虚血によるbacterial translocationがsepsisと同様の機序でDIC を惹起させると考えられている。その結果として、肝障害、腎障害、凝固障害の血液検査所見が認められ、これらの血液検査所見は熱中症重症度分類Ⅲ度（最重症）の定義に含まれる。一方、新型コロナウイルス感染症診療の手引き2022第7.2版によれば、COVID-19 患者の重症度判定や予後予測に資するバイオマーカー（重症化マーカー）については、①リンパ球減少、②血小板減少、③D ダイマー上昇、④C 反応性蛋白（CRP）上昇、⑤プロカルシトニン上昇、⑥クレアチンキナーゼ（CK）上昇、⑦アスパラギン酸アミノトランスフェナーゼ（AST）上昇、⑧アラニンアミノトランスフェラーゼ（ALT）上昇、⑨クレアチニン（Cre）上昇、⑩血清乳酸脱水素酵素（LDH）上昇が人工呼吸や死亡と有意に関連していたと報告している。熱中症とCOVID-19の重症化マーカーとしての血液検査は重複している項目が多いのが現状である。
熱中症とCOVID-19を鑑別するバイオマーカーを検討した研究としては、本邦で行われたHeatstroke STUDY2017-2019に登録された熱中症入院患者90名とCOVID-19入院患者86人の採血検査を比較した報告があり、白血球（10.8×103/μL vs 5.2×103/μL、p<0.001）、Cre（2.2 vs. 0.85 mg/dL、p <0.001）、CRP（0.2 vs 2.8 mg / dL、p<0.001）の3項目で有意差を認め、夏季のCOVID-19蔓延期における急性腎障害の所見が鑑別に有用と報告している。しかし、COVID-19 入院患者の急性腎障害の頻度は36.6％と高く、ネフローゼ症候群やANCA 関連腎炎等のCOVID-19関連腎疾患も広く報告されていることから、急性腎障害の血液検査は鑑別検査としての推奨には至らない。
熱中症の特徴としては前途のごとく臓器虚血と高体温により肝障害、腎障害、凝固障害が発生するが、これらの臓器障害の悪化を見逃さないようにするには、少なくとも72時間以上の血液検査のフォローが必要とされる。熱中症診療ガイドライン2015によれば、非労作性熱中症では腎機能障害は＜5%、労作性熱中症では25-30%に発生するとされる。熱中症における観察研究によると、CK 上昇が最も特徴的であるが、その割合は7.9-92.0%と幅広く、対象患者も一定ではないことや、測定値が熱中症の重症度と長期的な予後と適切に反映していないといわれており、異常値の割合を一般化することは難しい。また熱中症で発生すると推定される電解質異常についても、高/低ナトリウム血症、高/低カリウム血症とも労作性、非労作性熱中症それぞれ特徴的な結果を示すに至っていない。その他、熱中症による臓器障害を反映し早期診断や治療に有用と報告されているバイオマーカーとして炎症関連タンパク質High-mobility group box 1 (HMGB1)があるが、まだ臨床的に実用化されていない。
COVID-19の血液検査の特徴的項目としては、最近のメタアナリシスでは一般的な検査
異常はCRP上昇 68.6%[95%CI: 58.2-78.2]、リンパ球減少57.4%[95%CI: 44.8-69.3]、LDH上昇51.6%[95%CI: 31.4-71.6]とされる。また COVID-19 入院患者の観察研究では、AST、ALT 上昇は28-76%、総ビリルビン（T―Bil）上昇は18%、LDH 上昇は76%、ミオグロビン上昇は15%、D ダイマー上昇は36%に見られ、血中尿素窒素（BUN）、CreやCKについては基準値より上昇する例も下降する例も見られている。またCOVID-19に対して電解質異常を検討した研究はなかった。
以上より、熱中症及びCOVID-19それぞれによる臓器障害や重症化予測を反映する可能性のある検査項目は存在するものの、熱中症とCOVID-19の鑑別に有用な血液検査は現時点では明らかではない。

 
参考：新型コロナウイルス感染症流行下における 熱中症対応の手引き（第 2 版）