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熱中症とコロナ⑥

8/11/2022 10:00:02

新型コロナ

今日のポイント:熱中症を疑う患者の胸部CTでコロナの確定診断、除外診断は不適切
 

引き続き熱中症とコロナに関する内容を取り上げます。

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Q-6 高体温、意識障害で熱中症を疑う患者の胸部CT検査はCOVID-19の鑑別診断に有用か?
A-6 確定診断と除外診断に用いるには、不適切である。


【解説】
熱中症は診断と治療が遅れると予後が悪化するため、迅速な診断と治療介入が必要であ
る。COVID-19流行期にはCOVID-19が鑑別疾患に含まれるため、通常診療と比較して様々な制限が課され救急医療現場への過剰な負担と治療開始の遅れにつながる可能性があ
る。胸部単純CT検査によりCOVID-19を早期に鑑別できればこのような問題は解決される。そのため、高体温、意識障害で熱中症を疑う患者に対して、胸部単純CT 検査が COVID-19 との鑑別診断にどの程度有用か検討を行った。
COVID-19および熱中症をキーワードとして検索した Medline43編,医学中央雑誌11編の論文を対象とし検討した.この中で,高体温、意識障害で熱中症を疑う患者への胸部単純CT検査が、COVID-19との鑑別に有用かどうかを検討した報告はなかった。ゆえに、熱中症とCOVID-19それぞれに対する胸部単純CT検査の知見を以下に述べ、それらを比較することで有用性の検討を行った。
熱中症患者は、頻度は不明であるが熱中症の発症24-48時間以内をピークとして、急性呼吸窮迫症候群 (Acute Respiratory Distress Syndrome: ARDS) を合併する可能性があり、ARDSを合併した場合には両側肺のびまん性の浸潤影が特徴的な所見である。しかし通常の熱中症診療において、来院時点でARDSを疑わせるような呼吸器症状を呈していない熱中症患者には、特定の胸部単純CT画像所見は無い可能性が高いと考えられる。
一方、COVID-19患者に関しては、両側肺のびまん性末梢かつ胸膜下優位のすりガラス影が特徴的な胸部単純CT画像所見が出現する。なお、この画像所見を特発性間質性肺炎の分類を用いて分類すると、急性間質性肺炎、急性線維素性器質化肺炎、非特異性間質性肺炎、特発性器質化肺炎に類する画像所見となる。しかし、COVID-19には ARDS を合併する症例も存在し、これらの画像所見が当てはまらない可能性があるため注意が必要である。そして、これらの胸部単純CT画像の特徴的な所見に関しては、感度は70-90%台後半、特異度は20-90%程度と報告に差があり、有用性に一定の見解は得られていない。ゆえに、胸部単純CT画像検査は高体温で意識障害を呈しており、特に呼吸不全を合併する患者のARDSやCOVID-19といった呼吸不全の鑑別診断の一助とするためには有用な可能性があるため、検査の施行を考慮しても良いが、確定診断に用いるには不適切であると考えられる。
我が国においては、2022年2月頃に全国的にデルタ株からオミクロン株に置き換わり、本手引き発行時点での感染の主流系統となっている。2021年12月から翌1月に実施されたイギリスのレトロスペクティブ研究では、典型的なSARS-COV-2肺炎の胸部CT所見を呈していたのは、従来型(デルタ株)では83%(55/66)であったのに対して、オミクロン株の患者では40%(16/40)のみであり、オミクロン株は、正常と分類されることが多くなっていたと報告されている。
熱中症とCOVID-19の鑑別には病歴や発見状況などが極めて重要であること、胸部単純CT画像の重要度は高くないこと、また、前述のように熱中症は迅速な治療介入が必要であると考えられることから、胸部CTに時間を要するような場合には治療を優先するべき状況も想定される。但し、意識障害を呈している場合は脳血管障害の鑑別目的に頭部 CTを必要とすること、多臓器不全を呈している場合は腹部CTで器質的疾患の鑑別が必要になることを踏まえると、積極的冷却法や補液を行いながら、胸部CTを含めた全身の CT検査を行うのが望ましいと考えられる。また、胸部単純CT検査は確定診断には用いることができないため、COVID-19被疑例の判断の解除は、COVID-19の蔓延状況、臨床症状、リアルタイムPCRやLAMP法などの遺伝子増幅検査、抗原検査の結果等を総合的に勘案して慎重に行うべきである。 

 
参考:新型コロナウイルス感染症流行下における 熱中症対応の手引き(第 2 版)

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